INSTINCT MACHINEGUN

ポケモン好きのサンガサポ。夫はセレッソサポのパンダ氏。ゆるすぎる観戦記やら旅行記やら。

「前代未聞」はいけないことなのか?――朝日新聞 33人入場禁止問題について考えたこと【J特】

久々に長文かつ真面目なブログを書こうと思う。
京都サンガF.C.での禁止行為に対する処分について


はじめに、当該サポーターグループ所属者やその友人・知人を含め、あらゆる立場の方々がこの記事をお読みになる可能性があることについては、当然のことながら念頭に置いている、ということを附記しておく。


今回取り上げるのは、朝日新聞によるこの記事。
前代未聞の入場禁止33人。その背景

  • 「サポーター団体全員入場禁止」は適切か?

朝日新聞の記事の主張は、「サポーター団体に所属する全メンバー(33人)が無期限の入場禁止処分を受けるのは異常な事態」であり、中には「無実の人間も含まれている」というものである。
しかし、この主張は正当なものなのだろうか?


朝日新聞の記事には、スタジアムに通っている者の目からすると「書かれていない部分」があり、下手すると事実誤認を招きかねない。
まず、この記事は、あたかも当該サポーター団体が問題を起こしたのは「今年だけ」と受け取れるような書き方をしているが、実際はそうではないのは、何年もスタジアムに通っているサポーターにとっては自明のことである。
私の記憶を辿るだけでも、斉藤選手と口論になったり、フィールドに物を投げ込まれたことに気づいた美尾選手がそれを拾おうとしてスタッフに制止されたり、水をかけられたりと、様々な場面が思い浮かぶ。
斉藤選手や美尾選手が京都サンガに所属していたのは、もう何年も前のことだ。


また、朝日新聞の記事では、当該団体が「上半身裸になって応援」しているため、イメージが悪く、「嫌われ度が高い」としている。
しかし、彼らが毎試合のように、キックオフと同時に大量の水を撒き散らし、ぶつかり合い(モッシュ)をしていた、という事実はどこにも書かれていない。
確かに彼らの応援していたブロックは、遠目から見てもわかるほど、周囲のブロックに比べて明らかに人口密度が少なく、ゴール裏に来るサポーターから避けられていたことは否定できない。
しかし、下半身が裸ならともかく、「上半身裸だから」というだけの理由で人を嫌うほど、サンガサポーターは幼稚ではない。
もっと他の理由があることを朝日新聞は見落としている。


今回の入場禁止処分は明らかに、「今年の問題行動」だけが原因なのではなく、サポーター団体が結成されてから現在までの行動の積み重ねの結果である。


ここで、朝日新聞は「無実の人々」が処分された、と主張している。
しかし「無実」とは何なのだろうか?


もちろん、今までの彼らの応援における功績は私もよく知っている。
また、当該団体のメンバーの方数名と直接会話したこともあるが、感じのよい人たちであった。
しかし、それと今回の事件は別であり、決して免罪符にはならないし、同情はするが、処分が間違っているとは思わない。


サポーター団体として横断幕を掲げたり、応援を統率する以上、団体のメンバーには連帯責任がある。
団体のメンバーには、他のメンバーの問題行動を防止する義務があり、所属者(それも1名などではなく、7名も)が問題を起こした場合は、責任を問われても仕方がない。
当人たちも、それはわかっているはずだ。


繰り返すが、今回の処分は、これまでの積み重ねの結果なのだ。
当該団体の所属者たちが、これまでの数年間、ずっと状況を改善できなかった責任は重い。
直接問題行動に出てはいなくとも、「それを傍観していた」「未然に防げなかった」責任はある。
今回だけのことではないのだから。
つまり問題視されているのは、新潟戦の1日だけではなく、これまでの数年間であるわけで、よって朝日新聞の記事にある「当日来ていなかった13人」が処罰されることも、何ら不思議なことではない。
むしろ「たまたま1試合だけ来ていなかった」という理由で処分を免れる方がおかしいだろう。


サポーター団体のメンバー33人は、自分の意思でその団体に所属していたはずだ。
まさか「脅されて仕方なく所属していた」なんて人はいないだろうし、また「団体の問題行動を改善する目的でメンバーになりました」という高尚な目標を持って所属した者もいないだろう。
おそらく全員、当該団体の活動内容にある程度賛同していたからこそ、わざわざ「所属」という選択をしたはずである。
もちろん、これ以上何か問題を起こせば責任を取らされる、という通告も知っていたはずだ。
彼らは、数年間にわたる自らの団体の置かれた状況を知りながら、そしてその状況が改善しないのを知りながら、所属し続けていたのである。
それは、彼らの覚悟であり決意であったはずだ。
もし、「直接問題行動をしなければ自分には関係ない」などと考えていたメンバーがいたとしたら(いないと信じているが)、それは悲しいことである。

  • 「集団でスタジアムに来ること」の問題視

「連帯責任」以外に、サポーター団体33人全員が無期限の入場禁止になった理由はあるのか。あるとしたら、それは何か。
私は、理由があるとすれば、彼らが「集団でスタジアムに来ること」「スタジアムに来て群れをなすこと」自体が問題視された結果なのではないかと考えている。


サポーター団体に「無期限の活動禁止処分」が下される場合、その内容はこうである。

横断幕の掲出、フラッグの掲出・使用、応援の統率、当該サポーターグループと判断できる服装、装飾品を身につけての来場を含めた団体活動のすべて

しかしこれでは、彼らが「スタジアムに来て集団で観戦すること」自体は阻止できない。


サンガ側は、「7月下旬から8月中旬にかけてはホームゲームが立て込んでいて、他のサポーターからの苦情も多く寄せられていた」と述べている。
このサポーターからの苦情こそが、当該団体全員が入場禁止になった最大の理由なのではないか、と私は推測している。


サポーターが苦情を寄せる場合、「どこどこのグループの誰々さんが」と、具体的に個人を特定して申し立てをしたとは考えにくい。
おそらく「この団体」「このブロックの人たち」と、グループ単位で相手を示したはずである。
(これは私の印象だが、サポーター団体所属者は、他のサポーターから「個人」というよりも「団体の一員」という目で見られる傾向があるように思われる。)
このことを考えれば、サポーターからの苦情は「団体そのもの」がスタジアムに集団で観戦に来ていることに向けられているわけで、「団体全員」が入場禁止処分を受けても、おかしい話だとは言えないのではないか。


現に、京都サンガの運営管理規定には、以下のように書かれている。
京都サンガF.C.試合運営管理規定

(抜粋)
第4条(禁止行為)
施設に入場しようとし、または入場した者は、運営・安全管理者が特に必要と認めた場合を除き、いかなる施設においても次の各号掲げる行為をしてはならない。
12.他のお客様および近隣住民にご迷惑をかける行為
15.競技場(スタジアム)内外に問わず安全管理上危険、迷惑、秩序を乱すと運営担当、セキュリティ担当および警備従事員が判断できる行為

第6条(入場拒否、退場命令)
1.運営・安全責任者は、第3条、第4条または第5条の規程に違反した者の入場を拒否し、あるいは施設からの退場を命じ、および第3条に掲げる物の没収等の必要な措置をとることができる
2.運営・安全責任者は、前項に該当する者の中で特に悪質と認める者に対しては、その後開催される当クラブ主管試合の全てにおいて入場を拒否することができる。また、チケットの返還を求めることができる

つまり、他のサポーターからの苦情が殺到した時点で、第4条に違反していることは明白なわけであり、入場拒否を受けても致し方ないのである。
ここで、このルールは「者」を対象としており、「団体」は対象にしていない、という意見もあると思う。
しかし、(私は法学部出身ではないので、専門的なことは言えないが)「団体」は「者(個人)」の集合体なわけであるから、「団体に所属するすべての者」が規則に基づいて処罰されても何らおかしくはないはずだ。


いくら問題を起こした直接の実行者が入場禁止になり、団体が活動禁止処分になったとしても、サポーターの中には、団体のメンバーたちがスタジアムに集っている、ということだけで恐怖や不安を感じる人もいるだろう。
今回の一度だけでなく、何度も問題を起こしているならなおさらである。
小さな子どもを含め、そのようなサポーター達が、本当に安心してスタジアムに来ることができるのか。
もし彼らの復帰があるとすれば、そこが争点になるのではないかと思う。

  • 「前代未聞」はいけないことなのか?

この朝日新聞の記事を読んでいると、「こんなことは今までに前例がない。だから正しくない」と主張しているように感じてしまう。
しかし私は問いかけたい。
「前例がないことは、してはいけないのか?」と。


朝日新聞の記事でも触れられているように、サポーター団体が無期限の「活動休止(解散)」になった事例はいくつも存在する。
たとえば、昨年のヴィッセル神戸などもそうである。
しかし、調べ方が悪いのかもしれないが、サポーター団体全員が「無期限の入場禁止」、つまり入場自体が禁止になったのは、京都サンガが初めてのようである。
それゆえ「前代未聞」と言われており、批判の対象となっているのだ。


確かに「先例がない」のだから、厳しい処分だと目に映っても仕方がないのかもしれない。
処分された当人たちも「連帯責任を追わなければならない」こと自体については了解しているのではないかと思う。
おそらく、前例と比べて「処分が重い」ことに異を唱えているのだろう。


しかし私は、いつかどこかのチームのサポーター団体に「無期限の入場禁止処分」が下される日が来ること自体は、何らおかしいことではないと思っている。
その日が一番最初に来たのが、たまたま京都サンガだったというだけだ。


Jリーグ全体を見渡すと、サポーターに下される処分は、年々厳しくなっている。
たとえば、朝日新聞でも引き合いに出されていた2005年の柏サポーターの事件では、加害者が所属していた2つのサポーター団体は、1年間の活動禁止処分で済まされていた。
しかし、2008年の浦和レッズvsガンバ大阪における事件では、2名の実行者が「永久入場禁止」となり、話し合いの末、サポーター団体が半ば自主的に解散することとなった。
(個人的には、このときサポーター団体が解散に応じていなければ、無期限の入場禁止になった可能性もあったと思っているが、憶測に過ぎないのでこれ以上は書かない。)
5/17浦和戦 サポーターグループ処分について そして「安全で快適なスタジアム」づくりを目指して
さらに2009年、ヴィッセル神戸は問題を起こしたサポーターが所属していた団体を「無期限の活動禁止処分」としている。
2009/09/08 浦和レッズ戦における禁止行為の処分について


このように見ても、問題を起こしたサポーターに対する処分は、年々厳罰化しており、今回の厳しい処分も、これまでの流れから見れば、ある意味当然だと言える。
現に、これだけ様々なサポーター個人・団体に処罰が下されているというのに、サポーターが起こす問題や揉め事はなくならない。
つい先日も、FC東京vs浦和でサポーターが掲示した横断幕が物議を醸し出したばかりだ。


ここで、今年の3月9日に、ガンバ大阪からサポーターに宛てて出された警告文を見てほしい。
【警告】誹謗中傷するバナー掲出、応援チャントについて

ガンバ大阪を応援するエリアにて、ガンバ大阪の判断に反する行為を行った人物・団体に関しては即座に退場、永久入場禁止とする厳しい処分にて対応することをお知らせ致します。


ガンバ大阪は、はっきりと問題を起こした「人物・団体」を「永久入場禁止」処分にする、と名言している。
いつかは禁止が解かれる可能性のある「無期限の入場禁止」どころではない。
先のサポーター2名に対しても宣告された「永久入場禁止」なのである。


つまりガンバでは、たまたま問題を起こしたサポーター団体がいなかったから、これまで処分の前例がないだけで、
いつでもサポーター団体が「永久入場禁止」(重ねて言うが、「無期限」ではない)になる可能性がある。


以上を考慮すると、「サポーター団体全員の無期限の入場禁止処分」は、遅かれ早かれ、どこかのクラブが下すことになったはずなのだ。
今回、たまたま一番初めにその決定をしたのが、我らが京都サンガだった、というだけである。


今回、サンガが「初めて」だから、という理由で批判されているのなら、それはお門違いであるし、
このようなことで批判を受けるのなら、どのクラブも厳しい処分を尻込みしてしまう。
私は「前代未聞」の先例を作ったサンガの勇気を讃えたい気持ちである。

  • 「荒くれ者」であることが入場禁止の最大の原因ではない

推測にすぎないが、私は、もし今回の33人がただのお友達同士の仲良しグループであったならば――つまり、「サポーター団体」として名前を掲げて活動したり、応援のリードを任されたりしていなかったならば――団体全員が入場禁止になることはおそらくなかったのではないか、と思っている。
ここまで厳しい処分が下されたのは、彼らが「応援をリードする立場」であり、「サポーターを引っ張る立場」であったからに他ならない。


確かに、彼らはとても頑張っていた。
応援をリードし、サテライトの試合でも声出しをし、チラシ配りも率先して行った。それはみんなが知っていることだ。
だからこそ、今回の厳しい処分が下されたのだ。


応援をリードしていた彼らは、サンガサポーターの「顔」であり、「代表」であった。
故に彼らは、誰よりも厳しくマナーや規律を守り、他のサポーターの手本となるべき存在なのだ。


勘違いをしてはいけない。
彼らの所属するサポーターグループが「無期限の入場禁止」という厳しい処分を受けたのは、決して彼らが「荒くれ者」だからではない。
彼らがサポーターの顔であり、サポーターの中心だったからなのだ。


果たして、当人達にその自覚はあったのだろうか。


「トラメガや太鼓を託され、大勢のサンガサポーターを率いるとはどういうことなのか。」
私はこれを機に、当該サポーターグループだけではなく、すべての応援をリードする立場にある方々に、もう一度立ち止まって考えてほしいと願っている。