INSTINCT MACHINEGUN

ポケモン好きのサンガサポ。夫はセレッソサポのパンダ氏。ゆるすぎる観戦記やら旅行記やら。

「GIANT KILLING」とJリーグの商標使用について思ったこと

Twitterを読んでたら、「(アニメ版)ジャイアントキリング」に関して、かの有名な宇都宮徹壱さんや後藤勝さん、他たくさんの方々が、「ジャイキリとJリーグの商標使用」について議論しておられた。
きっかけは宇都宮さんのこのツイート。

ジャイキリのアニメを見て、あらためて思う。商標使用を含めてJリーグが全面バックアップしていたなら、ものすごい相乗効果があったのではないか
http://twitter.com/tete_room/status/11992076596


どういうことかというと、ジャイキリの世界では、「Jリーグ」という言葉や実在のチーム名が商標の関係で使えないので、
リーグの名前は「リーグジャパン」(ロゴはJF)になっているし、チーム名も「名古屋グランパレス」だの「川崎フロンティア」だのといった「もじり」になっているのだ。
(ちなみに京都のチームは現在2部所属らしい…カナシスなぁ)


それを、たとえばウイイレみたいに、実在のチーム名や選手名の使用を可能にして、ETUを本当の意味で「Jリーグチーム」にしてしまえば、ジャイキリという漫画にとっても、Jにとってもよかったのではないか?という話。


しかし私はこの提案には否定的な考えだ。
確かに宣伝効果はあるかもしれないし、リアリティも増すかもしれない。
でも、それで本当に漫画としての「GIANT KILLING」が面白くなるかどうかは疑問だ。


まず、すべてのチームが「もじり」ではなく実在のチーム名になれば、ETUはどうなるか。
我らがETUは、ETUではなく「FC東京」になってしまう。
チームカラーやマスコット等、明らかに違う部分はあるものの、「東京ヴィクトリー」と東京ダービーをするなど、ETUは立地から考えると明らかに「FC東京」なのであり、故に08年の段階から「多摩川クラシコ」とのタイアップも行っている。
もしETUが「FC東京」として描かれれば、FC東京サポーターなら、それはそれは嬉しいだろう。
しかし、他のチームのサポーターならどうだろうか?
明らかにそこで、温度差が生まれるのではないだろうか?


ここで一旦、宇都宮さんが例に挙げている、水島野球漫画について考察したい。
ドカベン」や「あぶさん」には、確かに実在の球団や選手が登場する。
しかし、これらはジャイキリとは少し毛色の違う漫画だ。
ジャイアントキリング」は、達海猛という主人公がいるものの、基本的には「ETU」の物語・歴史として描かれる。
つまり基本的に重点が置かれているのは「ETU」というクラブのみだ。(持田の物語やオールスターのような例外もあるが。)
一方、「ドカベン」は高校野球時代から始まり、成長した選手たちは、様々な球団へと入団していく。
つまり、ひとつの球団が偏って描かれるわけではないし、たとえ主人公のドカベンが加入した西武がメインに描かれることになろうとも、他球団のファン、たとえばホークスのファンだって「うちには岩鬼が来てくれたしなぁ」と楽しむことができる。


また、「あぶさん」は、舞台こそプロ野球という非常にリアリティーのあるものだけれども、内容にはフィクションめいた要素が強い。
だって、現実には60歳越えて現役続けられる選手なんていないでしょう?
あぶさん」は化け物的存在、つまりある意味リアリティがないのであって、これは舞台・内容ともに極力リアルであろうとしているジャイキリの姿勢とは異なっている。


それに、プロ野球球団は、6チームという少数でリーグ戦を行っている。
両リーグ合わせても12チームだ。
たった6チームなら、比較的短期間ですべてのチームを漫画に登場させ、試合させることができるだろう。
しかし、J1は現在18チームの大所帯だ。
たとえ実在のチーム名が使われようと、待てど暮らせど漫画に出てこないチームがいくつも出てくるだろう。
実在のチーム名だろうと、出てこなければ、サポーターは嬉しくないし、意味もない。


話を元に戻そう。
そもそもジャイキリの読者は、リーグジャパンを「Jリーグみたいなもの」と認識して読んでいるわけだし、
リーグジャパンは「名前(商標)」以外はJリーグと瓜二つの存在なのだ。
そんな中、名前が実際の「Jリーグ」になったところで、「ガンナーズ」が「ガンバ」になったところで、リアリティが増すのだろうか?


私にはそこまでリアリティが増すとは思えないし、むしろデメリットの方が多いのではないかとすら考える。
実在のチーム名が使われていれば、どうしても「現実のガンバ」や「現実のヴェルディ」と比べてしまう。
我々は、現在J2で苦しんでいるヴェルディを知りながら、ジャイキリ界のヴェルディを「2年連続優勝したチーム」と簡単に認識できるだろうか?
現実には西野朗という監督がいることを知りながら、「ガンバのダルファーとソノダくん」のやり取りを本当に楽しめるのだろうか?
そもそもダルファーは西野監督に取って変わられ、存在しなくなるかもしれない。
こう考えると、ジャイキリは「商標」を得ることで、逆に「窮屈な漫画」になってしまうのではないか、と懸念してしまう。


もし何らかのリアリティが増す要因が存在するとしたら、それは「実在の選手が出せるようになる」という点くらいではなかろうか。
たしかにこれは、ジャイキリという漫画を劇的に変化させそうな要因である。
しかし、「実在の選手」の存在感は強烈なものである。
よほどうまい書き手でない限り、架空のキャラクターは実在の選手に食われ、その面白さが活かせなくなってしまうだろう。
つまり、たとえ二川さんが実際に出てきたとしても、窪田は今と同じくらい面白いキャラクターでいられるのだろうか?
そもそも窪田は存在できるのだろうか?


前述の通り、ジャイキリは内容も、極力「リアル」にしようと奮闘している漫画であり、無茶苦茶な選手は出てこない。
ここにさらに「商標」「実在選手」というリアリティを加えてしまえば、ジャイキリという漫画は「現実」にがんじがらめになって、無味乾燥な作品になってしまうのではないか。


あぶさん」はこの点をうまく解決していて、それを可能にしている要因は何かというと、前述のように「あぶさん」が「ぶっとんでいる存在」であるという点である。
「いやこんな選手いるわけないだろ」、と読者に思わせるような選手をあえて登場させることで、リアリティにがんじがらめになることなく、そこにうまい具合に「架空」「非現実」を混ぜ込んでいる。
つまり一定の非現実性を混ぜ込むことで、「遊び」の部分、面白みを出せる部分を残している。
今のジャイキリの作風を考えると、それが出来るとはどうも思えない。


そしてETUは、なんだか「FC東京らしきチーム」ではあるけれども、決して「FC東京」としては描かれない。
ジェフ千葉をそのまま漫画にしたかのような、同じ作者による「U-31」とは違うのだ。
(余談だが、「U-31」は「どう見てもジェフっぽいけどジェフではない」から面白いのであり、故にどのキャラクターがどの選手へのオマージュかを考える一種の「当てっこゲーム」のような楽しみ方もできるのであって、これは明らかに商標を使用していないことによって生まれたメリットである。)
そもそもETUは、名前からして他チーム(ガンバ→ガンナーズヴェルディ→ヴィクトリー)の連想を生み出す単純さとは一線を画している。
ETUは、あえて「FC東京っぽさ」を極力排除しているのだ。
ETUは、FC東京ではない。
だからこそ、すべてのサッカーファンから愛されるのだ。


宇都宮さんは

「2部に落ちた」というより「J2に落ちた」といったほうが、リアリティとシンパシーの重みが違うと思うんですよ
http://twitter.com/tete_room/status/11994493333

と言っておられる。しかし、リアリティはともあれ、


「俺たちのETUが2部に落ちた」
「俺たちのFC東京がJ2に落ちた」


このどちらにシンパシーを感じる人が多いだろうか。


FC東京ではないから、柏レイソルともコラボレーションして、カレーパーティーなんかもできる。
もしETUが「FC東京」になってしまえば、注目を集め、得するのはあくまでFC東京だけであろう。
他のクラブ、ひいてはJリーグ全体との間で相乗効果があるとは思えない。


ここで問題の解決策として、「ETUだけ架空のクラブにする、あとは実在のクラブ名にする」というのが考えられるが、「完全に架空にする」というのはなかなか難しい。
たとえETUが「ヴェルディ」でも「FC東京」でもありません、となったとしても、東京に存在する限り、それが東京のどこかのチーム、たとえば町田なんかを連想させないとは限らない。
じゃあJのない県にETUを作ればいいじゃないか、といって、仮に長崎あたりのクラブという設定にしたとしても、そこには「V・ファーレン長崎」というチームが存在するし、「なんかVファーレンっぽいチーム」と読者に思われてしまう可能性が高い。
これは、プロ野球とは違って、現在のJリーグが「アマチュアチームが新規参入しやすいリーグ」というのが影響していると思う。
「Jを目指します」「準加盟します」というアマチュアチームは現在非常に多い。
極端な話、どんな地域のどんなチームもこぞって「架空のJチーム」であろうとしているのであり、
「ETU」をどこに作ろうと、存在が被りそうなチームは必ずあるのだ。


だから、下手に商標なんかを使って、ETUを完全に現実の存在(つまりFC東京)、もしくは完全に架空の存在にするのは危険だと私は思う。
ETUは、なんかFC東京っぽい、でも作者さんの好きなジェフかもしれない、はたまた実は柏かもしれない、でもユニはなんかコンサっぽい、そんなテキトーな感じが、おそらく一番適してるのだ。
実在してるんだかしてないんだかわからない。
この境界線上にあるからこそ、ETUは読者みんなから愛されているんだと思う。