INSTINCT MACHINEGUN

ポケモン好きのサンガサポ。夫はセレッソサポのパンダ氏。ゆるすぎる観戦記やら旅行記やら。

バガボンドを読む・4

昨日の続きです。

バガボンド(13)(モーニングKC)

バガボンド(13)(モーニングKC)

「殺す それ以外に言葉を知らぬ」(13巻 118話)

そんなわけで、黄平と龍胆の過去話を絡めつつ、武蔵と黄平の戦いが描かれていきます。
「他人の命を奪う」ことでのみ自分の存在意義をわずかに確認できる黄平は、徐々に以前の「死神」としての姿を見せ始める。
それでも戦いの途中で、小次郎にやられた瞬間のこと、つまり自分の「強さ」という唯一の生きる支えもすでに潰されて消えてるを思い出したりして、黄平の中で「殺し合い=自分の存在価値」という方程式がかなり揺らいでいる。
そしてその直後。

「俺と同じ―― ひとの…
人の世に何の価値もない 毒蛾のような存在だ」(13巻 122話)

黄平は、武蔵も自分も「無価値な存在」であると告げようとする。
でも、「ひとの…」ってとこで、ちらっと龍胆の方を見て、一瞬、次の言葉を言うのに躊躇いを見せる。
常につかず離れずな黄平と龍胆の関係だけど、黄平は無意識のうちに、「龍胆」の存在によって自分に価値が生まれているのだと気づき始めてたんじゃないかなぁ。

あの男を“たけぞう”にとられた
戦うことすら禁じられたら どうすればいいのだ? (13巻 121話)

そもそもこの2人の境遇はかなり似ていて、
黄平自身も言っているように、2人とも争い・憎しみしか知らずに育ってきたわけですよね。
で、復讐の相手が死んでしまって、憎しみのやり場がなくなってしまったという点も共通している。
「殺す」という言葉しか知らない2人。
だからこの2人が心を通わせる方法も、戦うということしかなかった。
この辺りは、20巻178話で巨雲さんが小次郎に言っていた
「小次郎俺たちは―― 抱き締めるかわりに斬るんだな」
という台詞に通じてる気がする。
だから龍胆は、黄平に別の「戦う相手」が生まれて戸惑い、涙を流す。
戦う以外に相手を愛する方法を知らないから。


しかし黄平が武蔵に殺されかけ、さらにKYな又八が乱入してくることによって、ついに黄平と龍胆の間の壁が崩れ去る。
指のなくなった手で、龍胆の頭をなでる黄平。
黄平の体から溢れる血を止めようと、傷口を両手で押さえる龍胆。
そして、私が「バガボンド」の中で最も好きな台詞を龍胆が放つ。

「血…… 温い」

いやちょっと今この台詞を打ち込んでてマジで泣きそうになったわ(笑)
争い・憎しみの中で育ち、来る日も来る日も武芸者達を殺す日々の中で、
血なんて、2人ともたくさん見てるはずなのに。たくさん浴びてるはずなのに。
それを初めて「温い」と感じる。
「血の温もり」は、イコール「人の温もり」。
ここで2人は、初めて人の温もりというものを理解し、実感する。

自分を斬った敵に命乞いできるか?
生き延びるために
生きて誰かを守るために (13巻 125話)

「龍胆を守る」という自分の存在価値を見つけ、「殺し合いの螺旋から降りる」宣言をする黄平。
思えば、武蔵と黄平が惹かれ合ったのも、「戦いを呼ぶ人間だから」というより、2人とも孤独だからかもしれないなぁ。


そして2人とも、この戦いによって、自分をずっと捕らえてきた「憎しみ」を越える。
武蔵は、父親である無二斎への憎しみを。黄平は武蔵や、他の様々な敵への憎しみを。
でも、そこで「殺し合いの螺旋」から降りるかどうかが、2人の違い。


黄平は戦う理由も指もなくなったし、それ以前に小次郎にフルボッコにされた経験もあるしで、螺旋から降りる。
けれど、まだ「天下無双」を夢見る武蔵は、戦い続け、泥沼へと突っ走る。


黄平の元から去るとき、お通さんの顔を思い出して、急に泣きそうになる武蔵。
こういう時に自分のことを思い出してくれる人、私にはいるんだろうか。
恐らく過去にも今もこれからもいない気がする。
螺旋を突っ走る武蔵は、今後幸せになれるのかなぁ。
どうなの?イノタケさん。


あぁやっと13巻の感想を書ききった。
13巻の螺旋から俺は降りる(笑)
本当にこの13巻、大好きだ。
自分がもし死んだら棺桶に一緒に入れてもらいたい